蒼夏の螺旋
   
 “月下蜜夜”

            *R−17くらいでしょうか。
              BL系のそういう場面のみのSSSですので、
              淫靡な描写がお嫌いな方は自己判断でお避け下さいませ。

 
 

    ◇  ◇  ◇



 まだ真夜中だというのに、ルフィが不意に跳ね起きた。もがくような所作を見せて、こちらへしがみついて来までしたので、てっきり溺れそうになる夢でも見たかと案じたが、

 「夏休みも終わって、学校に行かなきゃならないやって思ってサ。
  なのに、タンスにも何処にも制服が見つからなくて。」

 しょうがないからってジャージを引っ張り出して、それ着てガッコまでって急ぐんだけど。その途中で、ちょっと待てって思い出すんだ。オレ、とっくに学生じゃなくなってんじゃんかって。インストラクターの資格とか取るのに支障がないようにって、大学検定受けたのに。そのためにって、中途で行方が判らなくなったからって正式には卒業してなかった中学も、残りの単位の勉強、ちゃんと補填したはずなのにな。

 そんな奇妙な夢を見たと。あははって笑ったお顔は、まだちょっと眠たげで。

 「あれだな。
  PC教室の子とか、サッカーチームの子たちとか、
  学校始まったのに頭がなかなかついてかないなんて話してるの聞いたから、
  それを覚えてて影響しちゃったんだろな。」

 何てこたないって微笑って済まそうとするのだけれど。聞いたこっちが…何てのか。どうにも収まりがつかない胸の裡
(うち)になっちまった。こっちが気にしててどうすんだってことなんだろうにな。そうやってお互いで意識して気にしてちゃあ、何にもなんねぇってのは判ってるんだが。全ての始まりみたいなことだ、忘れろって方が無理がある。それに、そういうの置いといても、その、なんだ……。





  ◇  ◇  ◇



 「ん…んぅ…。」

 まだどこか子供っぽい造作の小さめの手が、寝乱れて畝を立ててた敷布のひだをくっと鷲掴み。そこからますますのしわを寄せる。その敷布と混ざり合うようになった淡色は、前の合わせを大きく開かれた格好の、ルフィが着ているパジャマの裏側で。

 「く…あぁ…っ。」

 熱すぎる刺激から反射的に逃げようとしたか、敷布を蹴るようにしてその身がずり上がるのを、だが、大きめの手が許さぬとばかりに捕まえて。自分の体で軽く押さえ込むようにし、愛しい存在をやすやすとその場へ縫いつける。成長期に何年か、その“時間”を止められてしまった後遺症。屈強なというだけではなく、年齢相応の大人の身体となったゾロとは、さして変わらぬ年頃なはずの彼だのに。いまだに十代半ばで通りそうな、それは幼い体躯や風貌をしている小さな君で。

 「ん、ん…。」

 鎖骨の合わせから、首元、斜めに這い上がって耳朶の端。螺旋を描くようにじっくりと、ところどころで唇を伏せつつ、舌先をじわじわと這わせているゾロであり。それへと、嫌なんじゃあない、でも、強すぎて我慢が利かないと。そんな様子でいやいやとかぶりを振り、掠れた声をしきりと上げる。何か掴んでいたいと腕が伸びて来たのを、自分の背中へと誘導してやり。頼りない痩躯を自分の懐ろの奥へ迎え入れ、すがりつきやすいよう、深く密にと抱き合えば。少年の域を出ぬ骨格のもろさが、腕の中で甘くうねって痛々しい。これもまた、まだ成長過渡にあることの現れか、脾腹や内肢、二の腕の内側などなどが、子供のような瑞々しさを保ってのやわらかく。こちらはもはや、堅くなって強いだけの手のひらで、それでも出来うる限りのそおっと触れれば、

 「はっ…は、あ…。」

 そこから生じた熱が、彼の肌の下、何かを擽るものなのか。きつく眸を伏せ、こちらへとすがる。切れ切れになって急く息は熱く、それが胸板へと当たるのさえ愛おしく。萎えかけていてだろか、他愛なく開く小さな膝の間へ、こちらの躯を割り込ませれば。ゆっくり開いた双眸がそのまま、微熱に潤んだままで見上げて来る。薄暗がりの中にも潤みのつやを光らせる、そんな瞳を真っ直ぐに見つめ返したまま、顔を下げての近寄せれば。何が来るかは判っていたか、ゆるりと閉ざされた瞼のふちで、混ざり合った吐息が触れて。重なり合った唇が、そのまま一つになりたいと、駄々を捏ね合い、絡み合う。しっとりと甘い唇の下、薄く開いた歯列を舌先でまさぐって。あんまり急激に煽り立てても可哀想かと、それ以上は踏み込まず、小さな口元の端へなだめるようなキスを一つ落としてやれば。

 「ん…ぞろ…。」

 呂律の怪しい声が、それでも精一杯の睦言を零してくれる。自分も好きだと、愛しいという想い。眼差しに込め、見上げてくれるのが何とも健気でならなくて。汗に湿った髪を梳いてやり、呼吸の激しさを映してか、大きく上下する薄い胸板を、大切なものだからこそと唇で、密に丁寧に撫でてゆく。すがりついてた背中が逃げるのを追ってのこと、肩へとずれて添えられていた幼い手が、くすぐったい刺激となるそれを、遮りたいのか それとも促したいものか。時折 爪を立てるほどの力を込めては、そこから敢えなく すべり落ちかかるのが。どうしてだろうか、こちらへももどかしい。そのたび強く抱きしめ直して、こちらからもまたすがるのは、言わずもがな…想いが同じだという現れじゃあなかろうか。敷布との間へ差し入れた手で背を摩ってやりつつ、少しほど浮かさせた身の、胸の粒実へと唇を寄せる。こういう間柄になったことで、多少は感じやすさが増したのだろか。触れた途端にもう、小さな顎先やひくりと撥ねており、

 「んぁ…や…あ…。」

 か細い声に目線だけを上げれば、熱い吐息でさんざんに濡れたらしき口元が、半ば開いて喘ぐような形を作るのが見えた。堅く閉ざされた目尻には、潤みが薄く光っていて。その細身の上体だけを掬い上げられ、胸元に顔を臥せられているこの態勢は、どうかすると吸血鬼にでも襲われているような構図に似ていると、妙なことへ気がついたのは後の話。嫌と言いつつ、でも手は突き放したりはせずの、指を立て こちらへとしがみつくばかりなルフィであり。強い刺激は怖いのに、なのに少しずつ、それを欲しいと流されつつあるのが見て取れて。それでなくとも…こうまで密着しておれば、下着越しでも互いの雄芯の堅さは判る。洩れ出る声の甘みが示すよに、ルフィの側とてそこへの張りを漲らせつつあって。試しにと軽く腰を摩り当てれば、

 「くっ…あ…。」

 息を詰めつつ、その肩が震え。薄く目を開け、見上げて来るお顔は、含羞みとそれから、どこか恨めしげな気色にも満ちており。試したことを謝る代わり、再びの口づけをと唇を合わせれば。やや強引にむさぼり尽くされた狼藉の末、

  「お。」
  「♪」

 離れ際のこちらの口元、赤子のように ちうと吸って来た悪戯が、得も言われぬほど可愛らしい。微笑った形の口元が、妙に煽情的だったことも手伝って。何だか…衝動とやらに襲われた。膝の間へ割り込ませたままだった腰を、ぐいと進めてそのまま押し倒せば、

 「え? あ…。」

 不意を突かれたからか、鮮明な声を立てたほどビックリしていたらしかったが。互いが触れてただけのその部分へ、熱を帯びての硬い感触、こちらの手が割り込んだのへと気がつくと、かあと頬染め、視線を逸らす。ああそうなのだ、こんな風に相変わらずどこかで恥じらいが消えないルフィであり。取り乱すところを見られるのが恥ずかしいとか、こんな感じやすいなんていやらしくて恥ずかしいとか。何も言わずともその態度で伝えて来る含羞みが、却ってこっちを煽ると気づいていなくって。

 「あっ、ん…やぁ…っ。///////」

 下着をずらすと、熟して熱い実を手のひらの中へと収めきり、指の腹で隈なく、だがゆっくりと撫でてゆく。ところどこで ひくりひくりと肩が撥ね、短い笛の音のような声が切れ切れに上がる。切なげな声はだが、哀訴を込めた悲鳴というより、蜜をまとわせた懇願の甘えを感じさせ、

 「あっ、あ、ああっ。///////」

 淫らな声がどうしても上がることへの羞恥より、熟れ切ってのしたたりが始まってさえいる膨らみの、熱さや痛さに翻弄されているのが判る。その手で巧みに悪戯をしておきながら、ほんの鼻先にさらしたお顔は澄ましたままなゾロへと向けて、熱をおびた手を伸ばし、

 「や…ぁ、ゾロ…早…くっ、ぁ…。」

 達するための弾みをおくれと、熱のこもった視線を寄越すのが、何とも切なげで愛おしく。こっちだって見てくれほど平然としちゃあいない。本当は胸の奥やら腹の底やら、じりじりと熱くてたまらない。掠れた声の甘さや高さ。萎えかかった身が、それでも気を張ってこらえるその身じろぎの、頼りなくも懸命な感触が。いちいち生々しくも伝わって来るのが、どれほどこちらの雄を煽ってやまないことか。そんなこんなをひた隠すのは、見栄や何やのためじゃあなくて、ただただ不安を抱かせぬようにというためにだけ。片方の腕は宥めるようにとその痩躯を抱きしめるのへ回し、もう片やの腕は、熟した実からそれを愛でていた指先を後ろへとずらして。ぬめりをおびたまま、小さな窄まりへと至らせる。その途端、

 「ひぁ…っ。」

 見て判るほどに総身が撥ねたルフィだったのを、よしよしと優しく宥めて抱きしめてやり。肉づきの薄い双丘の狭間へまでぬめりを導くと、見もせぬままで、指先をすべり込ませてゆく。

 「あ…やぁ…。////////」

 さすがにこれは恥ずかしいか、反射ではなくの羞恥から、逃れたいような身じろぎをするルフィだが。雄々しくも頼もしく、体躯が一回りは違うゾロが相手。片腕だけでその上体、背中から腕から肩からと、すっぽりとくるみ込まれての抱え込まれていては、じりとも動けやしないというもの。それに、

 「…いや、なのか?」
 「〜〜〜。/////////」

 間近から響いた深みのある声には、別の意味から逆らえない。精悍さに惹かれ、恍惚をさえ覚えてしまう魅惑に酔って。恥ずかしいところを蹂躙されてるさなかだっていうのに、それを犯してる張本人だっていうのに。離れ難くての“違うの”と、かぶりを振るしかなかったり。

 「…あ、や、んんぅ…んっ、あっ。///////」

 頬にまであふれた涙を舐め取ってくれる、そんな舌の熱さえ判らなくなったほど。身体が内側から蕩けそうなほどの熱を帯びていて。後孔の奥まり、過敏なところをさんざんに摩られたことからだろう。狭いはずのそこは、ゆるやかに律動を始めての何かを迎える態度を示し始めてもおり。逆らう力なぞもはや欠片も残ってはない下肢を持ち上げられ、熱くて堅い何かをあてがわれたその瞬間だけ、え?と意識がクリアになったけど。次の瞬間、猛々しいものを感じて身がすくむ。

 「…あ…ああっ、あっ、やぁ…っ!」

 無理からの侵入が、内壁を摩り上げ、そこから途轍もない熱を生む。それへと慄き、声を上げまでして泣き出しかかったルフィだったのは、半分は怯えから。それが怖いのじゃあない。自分の感覚が熱を帯びての跳ね上がり、意識がぐらりと揺れて傾いたのが怖かった。

  ―― どこかへ流され、そのままどうにかなったらどうしよう。

 だが、しゃにむに伸ばした手を、誰かが捕まえてくれた。何処へもやらないからと、総身をくるんで抱きすくめてくれた。男臭い匂い、堅い肌、熱い頬。……大きな手、ああそうだ。


  ――― ぞ ろ 。


 何からだって守ってやると、いつだって頼もしいこの手でこの腕で、抱きすくめてくれてたじゃないかと思い出す。なぁんだ。何を怖がってたかな、俺。ほっとして、口元がゆるんじゃって。なに笑って寝てやがる、なんて、あとでからかわれたらどうしよか。何でだか、そんなことを思ってしまい、ますます笑みが零れてしまったのを最後に。揉みくちゃにされてた奔流の中、すうと意識が途切れたのへ素直にその身を任せると、深い眠りについたルフィだったりし。そして、

 「………。」

 体内の昂ぶりがするすると引いてゆくのをなぞりつつ、腕の中の温もりが萎えてゆくのを愛おしげに抱きすくめ。懐ろにすっぽりと収まった、愛しい人を見下ろしたゾロの側はといえば。すっかり寝入ったその拍子、くふんと吐息をついたのが、仔犬が鼻を鳴らしたように聞こえたものだから。淫靡な睦みがたちまち、無邪気で温かな抱擁だったような感触へと擦り替えられる不思議。

 「…すまんな。」

 いまだどこかで過去に捕らわれ、苛
(さいな)まれてしまっている彼であるものかと。勝手に熱(いき)り立ってしまっての、ムキになり。愛しい恋しいという熱に浮かされ、掴みかかってしまったようなもの。不安な夢にうなされていた彼だったのへ、なのに、自身のむずがりをどうもこうも出来なくて。選りにも選ってルフィ本人へあたってしまったようなもの。こんな形でなどとは慰めたうちにも入らぬだろに、真っ直ぐな眼差しで見上げての、不器用な想いを受け入れてくれた、懐ろの尋深い優しい子。

 「………。」

 どこか遠くで、調子の外れたバイクのいななきが、長々尾を引き遠ざかる、秋の初めの夜の底。情の余熱の名残りを胸に、夜陰に慣れた眸で、それはまろやかな寝顔を見守るゾロだった。






  〜Fine〜 08.9.10.


  *唐突な奴ですいません。
   ワンピでR指定は久々ですかね。
   桜の頃合いと夏の終わりに、
   無性にこういうのを書きたくなるのは何ででしょうか。
   私の“盛り”も春と秋なのか。
   …犬ですか、猫ですか?(訊くことじゃないって)


bbs-p.gif
**

 back.gif